+

Sort by 01 2016

Category: スポンサー広告  

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Category: 黄昏町  

黄昏町 1

Twitterゲーム「黄昏町の怪物」の記録。

謎の異空間? 黄昏町をさまよった25日間の記録です。
今のところ、三つ目で猫目、獣耳、異様に長い指と蛇のように動く力強い髪を持つバケモノとなっております。
スポンサーサイト
Category: 小話  

くらげ


■ くらげ

12月24日。
 少年は夜道を行く。
 北国の冬には珍しく晴れた日だった。日が暮れて暗くなった空は濃紺。辺りを覆う白い雪とのコントラストが美しい。
 サクサクと粉雪を踏む帰路。今日はひどく寒い。明日の予報は雪、気温は上がるそうだ。暖かい日は牡丹雪が降る。粒が大きければ大きいほど、空が暖かい証拠だという。
 ふと仰ぎ見ると月が出ていた。満月だ、まんまるだ、ほぼほぼまんまるだ。すごいじゃん、満月じゃん、なぜか笑えてカメラを構えた。
 後日、現像から帰ってきた写真は紺色の中にちっぽけな白丸がぼやけて写っただけのつまらないものだったが、少年は昔見た深海の電飾クラゲを思い出してひそやかに笑った。


12月30日。
 男は真夜中の都心を歩いていた。
 昼の喧騒はどこへやら、ビジネス街の夜は静かだ。
 シンシンと耳が鳴るほどの静けさ。灯りが付いた窓は残業の証だ。いまだ仕事納めのこない人々よ、今夜もごくろうさま。
 ほた、と雪が降り始めた。初雪だ、ぼたん雪だ。故郷では暖かい日にしか降らないやつ。数日前ならホワイトクリスマスでロマンチックだったのではないだろうか。とはいえ、独り身としては『ロマンチックを逃した彼女持ちども、ざまぁ見ろ』くらいの感想しか出て来ないけれど。
 ほたり、ほたり、灰色に鈍る夜空から落ちてくるそれを小さなクラゲのようだと思った。


12月24日。
 にぎやかな街に若い女性が現れた。
 『今夜は聖なる夜だから~♪』と服屋さんのスピーカーが歌う。
 彼女は雑貨屋の帽子やマフラーを集めたコーナーにいた。何度も何度も同じ品を手に取ったり置いたり、何度も何度も同じコーナーを行ったり来たりぐるぐると周回。彼女が身にまとうのも毛糸製品ばかりでとても暖かそうだ。毛糸のコート、毛糸の帽子、古いマフラー、毛糸の手袋。毛糸って見た目は暖かそうだよね。本当は風の強い日だとあまり暖かくないんだけど。
 ニットにまみれた店内をぐるぐる、ぐるぐる。10分も20分も飽きることなくうろついている。暖かな手袋はこの間、買ったばかり。白いマフラーは毛玉が目立っている、そろそろ新しいものがほしいかもしれない。ぐるぐる。
「バターんなるよ」
 くつくつと笑ったのは離れて見ていた青年。通路を挟んだ向こう側のベンチで熱い缶コーヒーを飲みながら。
「バターって何」
「知らんの、本であるやん。トラが周りすぎてバターになった話」
「ホラー?」
「童話」
 歩み寄った彼女と座っていた青年はくふくふ笑って言葉を交わした。
「んー…迷う」
 青年の隣に腰掛けて彼女が低い声を出すと青年はふきだしておかしそうに言った。
「どれでもええやん、見本なんか無駄やて」
 青年が抱えた包みには編み物の本。クリスマスのプレゼントには編み棒のセットをもらうそうだ。秋色の毛糸玉は少女の服とよく似た色。
 素人目じゃ解読できない編み図はまるで高度な暗号のようで、4歳下の妹が本当に帽子なんか編めるのかどうか、コーヒーが好きな兄貴はひそかに完成しまいと考えている。


1月1日。
 老いた女性が一人、山小屋の外に立っている。
 それほど登りにくい山ではないが、やはり冬山の登山はなかなか堪えるものだ。それでも初日の出を山頂で見られたことは大きい。疲れも眠気も忘れられる気がした。
 奇跡のような晴れ間から真っ赤な朝日が昇り出て、だんだんと金色に変わりゆくのを夫とともに見た。北国出身の夫は今でも「この程度の寒さじゃ冬のうちに入らん」とたびたび笑う。マイナスしかない世界なんて考えられない、と返せばプラスになる冬が気持ち悪いんだと不機嫌になるのだ。二度と帰らないという割に、故郷が好きなのだろうか。
 明け方の晴れ間はどこへやら、昼前の今、空は一面の雲に覆われていた。あの雲が水蒸気だと知ったときの釈然としない気持ちは老年となった今でも忘れられない。昔飼っていたハムスターの毛みたいにふわふわと柔らかそうなのに。
 雪国の冬空はめったに晴れることがないという。でもその空はひどく明るくて、いつだってシルバーグレーに輝いているのだと昔、夫が言っていた。
 空を均一に覆う雲の向こうに太陽の形が透けて見える。肉眼では見ていられないはずの恒星がただ少し眩しいだけの白い円盤となって雲の向こうから透けて見えるなんて、なんとも不思議な気分だ。となると雲はハムスターの毛皮よりも、マットな白銀色に輝くサングラスみたいなものかしら。
 山小屋から人が出てくる音がした。キィと扉、ザクザクと雪を踏む足音が。振り向くと少し渋い顔をして、煙草をくわえた夫が歩み寄ってくるところだった。
 ヘアカタログに載っていた流行のボブはクラゲをかぶったみたいだと夫には不評だ。白髪染めをやめちゃったからかな? 半分以上が白髪だから、なおさらクラゲみたいなのかも。
「寒いねぇ!」
 呼びかけたら夫は苦く笑って「まぁ、こんくらいだな」とつぶやいた。
 息が白い。呼気の水分が霜となり、髪や眉もところどころが真っ白く凍る。空も白い。明るさを増した空は白銀を越えてただ、白い。
「ねぇ、昔、帽子編んだよって、あげたん覚えてる?」
 付き合って初めての春、冬のうちに編みあがらなかった毛糸の帽子はもう防寒具の必要がなくなってから夫の手に渡った。あの頃は優しく笑って受け取ってくれた夫も最近ではことあるごとに容赦なくツッコミを入れてくる。今、春になってから毛糸の帽子なんか渡したら、季節外れ品の安売りを疑われるに違いない。
「覚えてるよ、付き合ってすぐだろ?」
「あれねー…」
「お義兄さんがほぼ編んだって、だいぶ前に聞いたわ」
 隠し事は告白する前に明るみに出ていた。わいわいと声がして他の登山客も山小屋を出る。これから下山。下界に帰ったらまず、兄に文句を言わなければなるまい。
「……次どこ行く?」
 気まずく話題を変えると夫はおかしそうにせき込んで言った。
「……くらげ」
 夫の定年退職とともに旅行が趣味となった二人にとって『次どこ行く?』はお決まりの一言。たいていは妻が言う。夫は単語でばかり答えている。
「くらげって何よぅ」
「くらげ、見に行こう。水族館。くらげの水族館」
 むくれた女性に、夫はいつもより柔らかい笑顔を見せて答えた。女性は年末に見た水族館のニュースをかろうじて思い出す。クラゲだらけの水族館、若者や家族連れにも人気なんだとか。
 知ってた? クラゲって海の月って書くん。
 水の母とも書くけどな。
 ゆるい会話を続けながら二人は山小屋に戻っていく。下界に降りたらまずは彼女の兄を訪ねてから水族館を探さなければ。きっと青い水槽に一杯のクラゲたちが、二人の来訪を待っていることだろう。

1234567891011121314151617181920212223242526272829303101 < >
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。